かわりばえのする私 vol.11
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私は明確に、シモキタで服を買おう、と思っていた。
ん、ちょっと待って。
前回、ちゃんと「下北沢」って書いたあと、「通称ですよ、呼び慣れてますよ。あと、青森県の下北半島とは違いますよ」っていう気持ちを込めて「シモキタ」って書き直したんですけど、カタカナで書くのも本当は違和感がある。やっぱり「下北」って書かせてくれ。今後「下北」と書いたらそれは下北沢のことです。いいですね。
はい。呼吸を整えまして。
私は下北で服を買おうと決意したけれども、地元のライトオンにすらロクに入れなかったビビりだから、下北で服を売ってるお店に入るなんてそりゃもう熱湯風呂並みのハードルである。リアクション芸人用の少しマシな熱湯ではなく、下北半島にある、熱すぎて地元民しか入れない「下風呂温泉(実在)」並みの熱湯風呂である。
本物の下北半島を登場させて非常に話をややこしくしてしまった。すみません。
ともあれ、私はまず、下北でヴィレッジヴァンガードに入ることはできました。本屋さんだから、別に何も買わずに出たっていいし、店員さんが声を掛けてくるなんてこともない。ヴィレヴァンには本がいっぱい、漫画がいっぱい、謎の雑貨もいっぱい。そのなかには、着るもの(Tシャツ程度ですが)も一応あります。こういうところから体を慣らしていきましょう。
しかし、ヴィレヴァンを出て細道をぷらぷら歩いてみても、路面店に入るハードルが急に下がるはずもない。田舎のライトオンの10分の1くらいの広さのお店に入ったとき、浴びるであろう店員さんの目線の強さは当然10倍くらいになるでしょう。そして、なんせ私の財布にはお金が全然入ってない。ライトオンならともかく、路面店の服なんて一体一着なんまんえんだか見当もつかない。
そして、お店のショーウィンドウ(という言い方は古いですね……)に映る私は、地元のスーパーで買った服を着ている。ガラスの向こうに見えるポップな色合いの服にものすごく興味を惹かれつつも、私はまるでドアに手をかけることなく、下北を散策するばかりなのでした。
しかし、ある日、南口の坂を下りていったとき、そこになんと、ドアを開ける勇気のない私にとって最高のお店が現れたのです。
ドアを開けづらい私にとって最高のお店とは、つまり、ドアがない店です。
そのお店は、なんとテント内でやっていたのである。
なんだか嘘みたいな話だが、そういうお店があったのである。土地やら貸借関係やらの権利をどうクリアしてるんだか分からないけど、かなり人通りの多い場所にある駐車場みたいなところに、いくつかのテントがすきまなく立っていて、その下にはぎっしり古着が吊るしてあったのだ。
しっかり場所言っちゃうけど、南口の坂を下りていって、餃子の王将があったり、カレー屋の「なすおやじ」に入っていく路地があったりする交差点の一角。今は比較的新しいビルが建っている場所が当時空きスペースのようになっていて、そこにテントの古着屋があったのです。店名はあったのかどうか、全く分からない。催事として時々やっているという感じでもなく、私の知る限り、常時そこにありました。
テントの下だから天井(?)は低くて、店内は薄暗い。奥のほうに小さいワゴン車が停めてあって、そのあたりがバックヤードというか店員(2人くらいしかいない)のたまり場のようになっていて、その手前にレジらしきスペースがあった。
なんだか怪しいけど、とにかくドアがなけりゃこっちのもんだ!!
私はスルーッと入って、手前のほうで古着をサーッと見て出ました。
少し時間を空けて、またスルーッと入って、ちょっといくつかつまんで値段を見て、またサーッと出ました。
何回かやってるうちに、ここは店員さんから声を掛けられなさそうだ、と気づいた。少しずつ、商品を見る時間を延ばしてみる。いけるぞ、ここは。いちいちドキドキしながら襟のところをまさぐって値札を引っ張り出し、値段もそんなに高くないことが確認できた。2~3千円くらいのものがたくさんありそうだ。仕送りしかもらってない私にとってものすごく優しい。
私はだんだん熱湯に体を慣らす感じで店内(テント内)を動き回り、びくびくしながらも服を見て選んで、Tシャツみたいな無難なものではなく、襟だけが青いサテン地(当時流行っていたんですよ)になっている、ちょっと変わった形のシャツを一つ選んだ。値段はたぶん2千円したかどうかだったと思う。
おぼつかない足取りでそれをレジに運んでいき、お金を払うと、青い服はコンビニで使うような安っぽいビニール袋に入れられて、私のものとなりました。
うわ~。買っちゃったよ~。下北で服買っちゃったよ!
私はテンションがぶちあがりまくって、コンビニ袋を振り回しながら畑の中の深大寺のアパートまで帰ったのだ。よかったね!
Illustrator/Takayuki kudo
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