能町みね子 連載「かわりばえのする私」vol.15を先行公開!

かわりばえのする私 vol.15

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 以前に仕事で、若めのものから年配向けの物までいろいろな女性誌を見ていたとき、対象年齢が若いほど、ファッション(服)よりも髪やメイクに気をかけている子が多いということに気がつきました。
 失礼ながらけっこう安っぽく見えてしまう(というか、実際に安い)ファッションに身を包みながら、そのわりにメイクや髪型にはかなり気をつかっていて、ちょっとアンバランスに見えるという例が、ファッション誌の中にさえ、たまに登場します。
 まあ、それはしょうがない。だって、ちゃんとした服は高いもん。
 お化粧はいわゆるプチプラコスメでもそこそこどうにかなるし、髪なんかアレンジだけなら自前で努力すれば無料です。美容室だって、ちゃんとした服を買うのに比べればさすがに安く済みます。標準的なお店で、オプションを特につけなければ、カットとカラーで1万を超えることはない。
 しかし、服だけは……。若者の持ち金では、なかなかいい感じのものに行きつけないんだ。安い服は、それなりにかわいくても、やっぱりどこか安っぽい。学生とか若者ってだいたいそんなもんです。しょうがない。
 で、私も例に漏れず、服には迷いに迷っていた一方で、髪に関しては服よりはだいぶ踏み込んでいました(メイクは当時の状況的に無理)。とはいえ、別に良い美容室を求めて青山とか原宿に行ったりするわけではない、そこはやっぱりビビりの私なので、上京したときに住んだ街の、最寄り駅の近くの美容室B(仮)に行ったのでした。
 毎日、つつじヶ丘駅近くの自転車置場から駅まで歩くとき、Bの前を通るんですよね。で、たまに閉店間際の時間に当たると、見習いみたいな子たち数人が外に出て何か片づけたりしてるんだけど、みんなかわいいし、楽しそうで、仲よさそうで、明るいんですよ。なんか雰囲気いいなあと思って。ここだったら気が引けずにイケるかなと思って。
 というわけで、服屋には過剰にビビっていた私、ここの美容室も最初こそドキドキしたけれど、ここは原宿でも青山でもないし下北沢ですらないぞ! 京王線つつじヶ丘だぞ! と思い、つつじヶ丘にビビるやつがあるか! それに美容室はそんなに高額じゃないぞ! と自らを奮い立たせ、お店のドアを開けた。
 そのお店には、店長さんはじめ正社員と思われる人が3人ほど、それに、後から聞いて分かったのですが、美容学校に通ってる最中の女の子が何人かバイト(見習い)で入っているお店でした。店長は髪をなでつけててダンディ。
 この、見習いの一人の野口さん(仮)がすごいありがたくってねえ。
 全方位的に人見知り強力発動中だった私、勇気を出してお店に入ったものの、最初はやはりこの子(同学年でした)にすら「さすが美容師志望、オシャレじゃん……」という引け目からガチガチに敬語を使っていたわけですが、野口さんはすごく明るく接客してくれる子で、そして……強烈な津軽なまりだったのだ。
 青森から上京してまだ一年も経ってなくて、西調布に住んでるんだって。電車のラッシュが嫌だから自転車で通ってるんだって。すぶやとかはらずくとか遊び行きたいのにこんな遠ぐだとは思わなかったですぅ〜って。え〜分かります〜このへん東京なのに田舎ですよねえ〜。うちとか裏が畑で〜。
 そういえば私はその後、出身でもないのに青森が大好きになって毎年のように訪れるようになったけど、もしかして遠因は野口さんだったんだろうか。ありがとう野口さん!
 あ、なんかよく「美容室で職業とか、今日何するんですかとか、当たり障りないことを聞かれるのが嫌だ、美容室では話したくない」とかいう人いますよね。私は当時から、なぜかその手の気後れだけはなかったのだ。というか、ある程度吟味して決めて入ったお店はことごとく当たりで、つまらない、興味のない話題を振られた経験がほとんどない。結果として、美容室の選球眼が良かったということなのかもしれない。それに、私は髪については比較的踏み込んで注文する方だったので、美容師さんはだいたいおもしろがってくれて、お店側から好印象を持たれることが多いのだった。
 ともあれ私はBに通うようになり、服は何を着るか全然決めきれない一方で、髪は赤くしてみたり、流行ってもいなかったパーマをかけてみたり、肩まで伸ばして前髪パッツンにしたりと、当時男子だったにしてはかなり冒険的なことをやっていました。何を言ってもBはノリノリでこちらのオーダーに答えてくれました。用がないときも毎日通る道だから、そのときチラッとのぞくと店内はいつも楽しそう。なんか、いいなあ。ちょっとうらやましいな。
 あ、私、美容師になろうかなあ。
 と、だいぶ早まって思いはじめたのは、大学卒業するまでまだ3年も残している頃だった。

 

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Illustrator/Takayuki kudo


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