能町みね子連載「かわりばえのする私」vol.23をweb先行公開!!

かわりばえのする私 vol.23

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 前回のつづきです。
 今まで容姿を見せずに活動していたけれど、ラジオ番組が始まるということで記者会見をすることになり、初めて人前に顔を出さざるをえなくなり、「サングラスキャラ」になろう、と決意した私。
 サングラスは、元からいくつか持っていました。お店で見てると買いたくなっちゃいますよね。そのくせ、サングラスってどこか恥ずかしくて、結局私はふだんかけられないんですよね。なぜあれはあんなにも恥ずかしいんだろうか。私は派手めの服を着たり、派手な髪色にしたりするのはほとんど恥ずかしいなんて思わないんだけど、サングラスだけはどうも照れくさい。
 私は夏、単に「まぶしいから」という理由でサングラスをかけたいのに、ここでも自意識が邪魔してまぶしさを必死で我慢してしまいます。手を目の上にかざしながら目元に小ジワを寄らせまくって日の光の下を歩く私、夏のストレスハンパない。
 これがいい機会かもしれない。サングラスなる物を我が体になじませるには、思いっきり公に写真を撮られるような場でバシーンとかけるくらいの荒療治がいいのかもしれない。そして以後、「サングラスキャラの人」として世間を闊歩していくのだ。
 私は記者会見に当たって、いくつか持っている中でも大きめのサングラスを選びました。そのときは髪型も、金メッシュの入った前髪パッツンのロングというそこそこインパクトの強いスタイル。容姿をどうこう言われるくらいなら、謎めいた、気味悪い感じにしたほうがいい。「そういうキャラの人」になろう。いっそつっこみようがないほうに突き進んだ方がマシだ。服もほぼ黒で行こうと決めました。
 こういうふうに、悩んだあまり極端な方向に突き進む……ということを私は今まで多く経験してきた。そしてその行動はたいがいの場合、うまくいかない。いかないんだよ。行動する前から薄々気づいてるんだけどね!
 記者会見は、ラジオ局が持つちょっとしたホールで行われました。同時にパーソナリティとなる5組は、芸能人が3組(俳優・芸人・ミュージシャン)、完全なる素人として選ばれた大学生が1組、そして私たち。パートナーである久保ミツロウさんも私も当時「漫画家」と名乗っていたので、肩書きだけは著名人かのようでしたが、メディアで顔を出すのはまったく初めてで素人同然、なんとも中途半端な立場です。
 この時の写真を改めて見てみると、私はパッツンロングで真っ黒いワンピースにサングラス。漫画家かなんか知らんが、すごい不気味なヤツである。そして、不敵な笑みを浮かべているのである。
 不敵な笑みに見える表情は、ただ単にこんな華やかな場で話したことなんかないから緊張してニヤニヤしてしまっているだけである。余裕も何もない。
 幸い、久保ミツロウさんはうまくスイッチが入るとガンガン話せる人なので、記者会見自体は久保さんの機転で見事に乗り切りました。となるとつまり、私があまり話さなくてもいいという状況でもありました。なんだかロクに喋らず変な雰囲気出してる真っ黒い人(私)に対して、その場にいた人たちも非常に触れにくい感じになってしまいました。
 私は……、私はこの不気味さに耐えられなかったんだ、結局。
 全然心構えがなってなかった。わざわざちょっと変わった服装をまとって世の中に打って出るぞ、っていう人は、ふつうもう少し肝が据わってるものだ。少なくともサングラスで世に出る人は、当面サングラスを外さないぞ!という強固な決意が必要なのだ。
 私は本当に中途半端でした。「謎めいた気味悪い感じ」を目指していたけれど、写真で見るこの人(私)は予想以上に謎めいた気味悪い感じで、自分でいやんなっちゃった。「見た目をどうのこうの言われるのは嫌だな〜」と思って私はサングラス芸能人になろうと決めたのに、あとから写真を見てみたら予想以上に不気味な人物になってしまい、「見た目を不気味だと言われるのは嫌だな〜」という、ほぼ同じところに着地してしまった。
 ああ、なんて私は常識人なんだ。なんて小物なんだ。
 私はそれなりの期間へこんで、もう一度サングラスをかけて人前に出る勇気をすごい勢いで失いました。そして、間を取って、メガネをかけたキャラになるということで落ちつきました。
 本当はコンタクトレンズをしているのでメガネは必要ないけど、わざわざ伊達メガネをかけることにしました。久保さんもメガネなので、女2人組でどっちもメガネというのはあまりいなくて印象が強いし、私の「素顔はあまり見られたくない」という希望もわずかに叶えられる。このへんが落とし所でしょう。
 こうして私は伊達メガネ姿を数年続け、その後いろいろ面倒になって外すことにしてしまい、素顔をふつうに丸出しにして今に至る。
 人前に出るときにどういう容姿の人として出るか。これはよくよく考えるべき問題です。そんな機会があったら、皆様もよくよく考えた上で、ぜひ一度大失敗してみてください。



Illustrator/Takayuki kudo


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