能町みね子連載「かわりばえのする私」vol.26を本誌発売と同日公開!!

かわりばえのする私 vol.26

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 みんな疲れてる。私も疲れている。世界もこんなだし、気候もこんなだし、疲れているとだんだん、深い意味を持つものを見るのが億劫になってきちゃう。悲しい。テレビよりネトフリのほうがいいなんて思っていたのも今は昔。テレビで芸人さん同士がなんてことない話をしてるくらいのほうが疲れているときにはいい。ついそんな番組ばっかり見てしまう。
 で、何気なくバラエティを見ていたら、お笑い芸人が自分の衣装を決めるまでの話をしていました。
 インディアンスの田渕さんは白シャツに胸元のひまわりのコサージュでおなじみになっています。これは、ひまわりをつけておけばボケだとすぐに分かってもらえるし、ひまわりの花はまちがいなく明るいイメージだからということでこうなったらしい。実際、キャラクターにすごく合っていると思う。
 銀シャリのお二人は青い揃いのスーツで、いかにも漫才師という格好です。最初は若手なのに古典的な漫才師らしい格好なので、コスプレをしているかのように思われて、舞台に出た瞬間に衣装で笑いが起こってしまったこともあったらしい。でも、漫才師としての実力もあるので、今ではすっかり定着しています。とても似合ってると思います。
 ああ、こんな話、いくらでも聞きたい。私は、芸人が自分の服装やキャラクターを定めるプロセスを聞くのが好きなんです。特に、コウメ太夫とかゴー☆ジャスみたいな「いかにもなキャラ芸人」というわけではない、でもよく考えてみれば衣装が決まっている、みたいな人が、たくさん考えて少しずつファッションを固めていくという話が大好き。
 大好きなので、もうちょっとそういう話をしますね。私けっこう知ってるんだ、この手の話。
 オードリーの春日さんは、もともとは映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に出てくるような、プレッピースタイルの大学生をイメージしたファッションなんだそうです。かなりがんばって先入観を抜いて見ればそんな気もしますが、元のモデルがあるのに今やあの服装が「春日」として定着してしまっているからすごい。
 チョコレートプラネットの松尾さんはかつておかっぱ頭にしていて、見た目だけでもけっこうインパクトがありましたが、今田耕司さんから「芸に対し髪型が邪魔してるんじゃないか」というようなアドバイスを受けて髪を切り、それから売れたらしい。なるほど、キャラをつけすぎてうまくいかないという例もあるようです。
 女性双子漫才師のDr.ハインリッヒは、ステレオタイプな「女芸人像」を拒否し、女性性も男性性も表現したいということで、黒のパンツスーツ・ピンヒールを貫いています。「美しいことは面白い」とまで言っています。芸人だからといって、いつでもいかにも面白いほうに持っていかなくてもいいわけだ。
 芸人、特に漫才師は、基本的に何も持たずに舞台に立ちます。しゃべりや芸で笑わせるわけだから、服装は(衣装そのもので笑わせる場合は別として)どうでもいい……かのようで全くどうでもよくない。単純にしゃべりを見せたいときには派手すぎる衣装が邪魔することもあるし、何らかの個性的な服をまとっているからこそおもしろく感じられる場合もある。
 無名の頃、二人の見た目の差を分かりやすくするために片方が伊達メガネをかけるなんて例は山ほどあります(さまぁ〜ずや三四郎はそうらしい)。売れてない頃のほうが派手な格好をしていたという例もよく見ます(タカアンドトシのタカさんは左半分金髪でヒゲでピアスだったり、カミナリのたくみくんがアフロだったり)。自分の芸を演出するのに最適な見え方となる衣装を、みんなこんなにも考えて決めている。仕事として自己プロデュースしなきゃいけない。
 私がテレビに出るとなったときも、こういう話が好きなもんだから、最初はいきなりサングラスキャラになろうと、張り切りすぎた自己プロデュースをして失敗した……という話は前に書きました。
 実はそのあとも、もう少し考えてました。毎回服を考えるのも面倒だし、フェミニンな感じがあまり好きじゃないので、いつもジャージでいる人というのはどうだ、と思いついて、これはなかなかいいんじゃない? と自分の中で盛り上がりました。
 しかし結局周りの人からこれも反対されてしまい、今は、人づてに紹介してもらったスタイリストさんにお任せすることになっています。私が好むテイストの服を選んでくれるからいいのだけど、自己プロデュースしていないということについては今でも少々モヤモヤしています。
 日常生活で芸人さんみたいに「いかにも」な衣装を着ることはなかなかないけれど、ふだんづかいの服もどこかに自己プロデュースの要素が絶対入るもの。自分をどっちの方向に向けたいか、それによって着る服も変わるわけで。
 私の友達なんかは、少し体格が大きくなってしまった、ってときに痩せる努力には向かわず、自分に合う服を自力で作りはじめました。こういうのも壮大な自己プロデュースですよ。


Illustrator/Takayuki Kudo


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