【最終回】能町みね子連載「かわりばえのする私」vol.30を本誌発売と同日公開!!

かわりばえのする私 vol.30(最終回)

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 前回書いたように、ここの連載には非常に困り続けて、今まで来ました。ファッションについて書けることはないの。アドバイスもない。さらに大きな、読者に何かハッと思わせるような教訓めいたことなんかもっとない。ちなみにこのコラム欄は、2千字ほどある。2千字と言えば原稿用紙5枚である。小学生の読書感想文としてはオーバーするほどの分量である。この調子で毎度2千字を埋めるとなると、ほぼ水みたいなうっす〜い連載になってしまう。ちょっと耐えられない。
 まずこの連載は、先代担当者により「能町さんが40歳を迎えて変わったと思うことについて書いたらどうでしょう」と言われて始まったのだが、当初から雲行きが超怪しかった。私は40歳になって変わったと思ったことなんて、年齢の10の位くらいなのよ。マジで何も変わった感じがしない。しかも、ラ・ファーファの読者層ってたぶん40代はコアではないので(いるとは思うけど)、「40代ってこうだよね」って堂々と共感を求めて書く気にはなれなかった。かといって「40代になるとこうなるぞ、気をつけろ」っていうアドバイスのベクトルはもっと苦手だ。
 それでも、どうにかそういうテーマで苦心しながら書いていた頃、実はエゴサで、「ラ・ファーファのコラム、能町さんだから期待していたけど、そのわりにはイマイチ」みたいな感想を見つけてしまった。最初から私なんか知らなくて「つまんね〜」と言っているならともかく、私を知ってくれているうえで、期待して「イマイチ」と言っている意見についてはもうヘドバンの勢いでうなずくしかなかった。「イイネ! キミはわかってる、私もイマイチだと思っているんだよ〜! キミとは気が合うよ!」と内心絶叫し、方針をさっさと変更することにした。
 ということで、ラ・ファーファはファッション誌でありながらきっと(私みたいに)なんらかのコンプレックスを抱えている読者が多いだろうから、それに寄り添うようにとにかくファッションのことを書こう、となった。で、今のファッションについて語れることもないから、自分が今よりもオシャレに数百倍のコンプレックスを抱いていた頃の思い出話でも書こう、と。
 でも、それは20年近く前の話なのだ。時代が違いすぎて、私はこれを何のために、誰に向けて書いているんだ? という気持ちになっていった。
 こんな感じで、私は完全に行き詰まったわけです。コラムってこんなふうに決まっていくんですよ。裏を全部書いてますよ。
 私は素直に相談した。もう無理だ、この連載は。どうしよう。
 私は、自ら仕事を辞めると伝えたことがあまりない。なんでもすぐ逃げたい辞めたいと言いたくなる逃避指向の人間なので、逆に、辞めろと言われない限りは続けたほうが最終的になんらかの実のある展開があるはずだから続けるべし、と思いこむことを仕事上での鉄則にしている。でも、今回ばかりはもう自分から辞めると言おうかなと思った。
 しかし、先手を打たれてしまった。
 打ち合わせの時に「まず、続ける意志としては、どうなんでしょうか……?」と聞かれてしまったのだ。
 こういうことって、あるよね! あるのよ!
 めちゃくちゃ疲れてて休みたいとき「大丈夫? 休む?」って聞かれたら「うん、まあ、大丈夫……」って言っちゃう。「こういうの嫌いですか?」って聞かれたら、本当は嫌いでも「え、全然、嫌いとかじゃないけど」って言っちゃう。
 相手がネガティブな方向で質問してきたら、ポジティブに返そうとしてしまう、これが人間である! うおお!
 「続ける意志としてはどうですか」って、要は、辞めるんですか? ってことじゃないですか。となると、私の脳はこの法則に従い、「いや、辞めるってわけじゃ……」って言っちゃうわけ。人ってそうなの。
 私は辞めると言い出す選択肢を失った。でも、とにかくファッションのことやアドバイス的なことは無理だ、どうしよう……と呻くほどに考えていると、もっと気楽に考えたらどうですか、と言われた。
 ファッション誌コラムで「気楽」と言えば、超有名人による「今日こんなことがありました」的な普通の日記である。え~、そういうの、やる? 私が? 知名度もないのに?
 「例えば、最近何を買った、とか」「まあ、買い物は毎日何かしてますから、ネタはありますけど」「今日何買いました?」「……ポポー」「ポポー? ……ポポー? 何ですか、それ」
 そんな感じで、なんとこの連載は、私がいつも何を買っているのか、という話に大幅に方向性を変えることになりそうです。
 まさかこのコラムに私がこんなに悩んでいたとは、読んでいる皆さんもわかりやしなかっただろう!「好きなことを仕事にする」ってのもそれはそれで大変なんだぜ!
 ポポーって何か、ですか? それは次回書くと思う、たぶん。次回までに方向性が変わらなければ。

Illustrator/Takayuki Kudo