能町みね子連載「買わりばえのしない私」vol.06本誌発売と同日公開!!

買わりばえのしない私 vol.06
楽しい楽しいお買い物報告日記の時間がやってきましたよ~! 一人暮らしを始めたばかりの人は、特にためになる(!?)「実用的な日用品」お買い物回です。

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2023年4月14日
ライトつきの鏡を買った
 高松で鏡を買った。
 前回書いたように、結婚して香川に引っ越した友だちの家に遊びに行ったのだが、旅程の最終日はひとりで高松をぶらついた。そして前回書いたように、中古レコード屋でCharaさんの短冊C Dを買い、そのあとぶらついている途中にフランフランを見つけ、そこで鏡を買ったのだ。
 どちらも高松である必然性はない。前者については、たまたま高松のその店にあったということでかろうじて理由にはなるけど、鏡に関しては100%必然性がない。フランフランは東京にもある。東京のほうがある。
 別にどこで買ってもいいものをわざわざ旅先で買うのがちょっと好き、というのがある。
 私は前からいわゆる女優ライトっていうんですか、ああいうライトのついた鏡がほしかったのよ。ちっちゃな手鏡しか持っていなかったもんで、いつもお化粧の時はちょっとだけ難儀してましてね。今度フランフランにでも寄ったらそういうのがあったはずだから買おう、と思って頭の中の「やることリスト」に「フランフランがあったら鏡を買う」とメモしておいたわけ。
 そしたら、その「フランフランがあったら」のチャンスが、まさかの高松で巡ってきたんですよ。こういうの、うれしい。旅先で日用品を買うことで、ちょっとだけここの住民になったような気がする。街に受け入れられたような気がする。
 私の、「旅先で、特におみやげでも特産品でもない日用品(非・消耗品)を買う歴」はけっこう長い。グリーンランドで、ただ寒かったという理由で中国製のセーターを買ったのが今までの最高記録だと思うのだが、何の基準で最高なのかはよく分からない。このリストに新たな一品が加わった。高松の鏡。


2023年4月13日
衣装ケースを買った
 一人暮らし開始以来、衣装ケースに困り続ける人生だったと言っても過言ではない。
 昔ながらの押し入れのある1 K和室の物件に住んでいたとき、その押し入れに合わせて、リサイクルショップででっかい衣装ケースを3つ買った。
 でっかい衣装ケースは、最終的にそのデカさを活かして、かさばるけどハンガーに掛けて吊っておきづらいもの、つまり主にニット類を入れるケースとして活躍するようになった。
 活躍のわりに、私から愛されていなかった。なにせ奥行きも深さもかなりあるので、一度ケースの奥に押し込んでしまったらもうその服は長く日の目を見ない。奥のものを出そうとして9割方引っ張り出すと、重みで引き出しが落ちそうになって危ない。入りすぎるので、重さでプラスチックがたわむ。しかし、壊れることはさすがにないので、買い換えよう! という気合が入るには至らないまま、なんと、なんと約20年の月日が流れた。最近一人暮らしをし始めた読者がいたら心して読むといい。なんとなく買ったものを20年以上使うことなんかザラだからな!
 コイツらは多すぎる私の引っ越しにも常についてきてくれ、都合8か所目の今の家まで来たのだが、ここに来てついに、深すぎる奥行きのせいでクローゼットに入らないという事態に直面した。いま住んでいる家は収納の感じがいまどきなので、吊り下げるポール部分が充実してる代わりに、あんまり奥行きがないんですよ。長くついてきてくれたコイツらとついに別れるときが来たようだ。引っ越し後、クローゼットにも入れられなくてリビングに鎮座させるしかなかった収納ケースを眺めて私は感慨に浸った。
 嘘。特に感慨はなかった。だからさっさと無印に行って、クローゼットに入る収納ケースを大量に買ったよ。反省を活かして、奥行きはもちろん、そんなに深さもないものを選んでね。でも、このデカブツを全部取り替えるとなると中身はけっこうな量だから、無印ケースは5つほど購入することになった。
 先日それが届いた。いま私の新居には、ニットその他がパンパンにつまったデカ衣装ケース3つと、何も入っていない無印衣装ケース5つがあり、押すな押すなの大盛況状態となっている。中身を入れ替えるスペースすらうまく取れない。すなわちやる気も出ない。毎日途方に暮れている。衣装ケースに困り続ける人生だ。衣装ケースと和解したい。




Illustrator/Takayuki Kudo

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