かわりばえのする私 vol.19
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服をどこでどう買ったらいいか、自意識と過剰に一大バトルして悩んでいた大学生の頃、周りの人たちはどうだったかというと、私が「こうなりたい」と思うようなおしゃれな人なんか全然いませんでした。いや、もしかしたらいたのかもしれない、ちょうどよくおしゃれな人もちゃんと追えば見つかったのかもしれないけど、私の目はそういう人を捕まえていませんでした。
大学のときにファッションをよく覚えている人は、みんな強烈な人ばかりです。
だいたい学内のファッション偏差値はかなり低く、男子のほとんどはネルシャツ+チノパンみたいなかっこうをしていたし、女子も全体的にもっさりしていました。「お母さんが買ったような服を着ている」という言い方はふつう男子学生にしか当てはまりませんが、女子でもたまにそういう小学生みたいな服を着ている子もいて、自意識を肥大させた私は「よくそんな服で……」と驚いたもんでした(余計なお世話)。
そんななかで、たまたまキャンパス内で目にする、知り合いでもなんでもない、一度見たら忘れられないファッションの人が何人かいたのです。男子学生のほうが多い大学だということもあって、強烈な印象の子はほぼ男子に限られました。
まず、掲示板のそばでよく見かけた、ヴィヴィアンウエストウッドのロッキンホースを履いていた男の子。私は当時ヴィヴィアンも知らなかったので、木製のソールのついためっちゃ厚底の変な靴を履いているすごい子がいる、ということで覚えていました。おそらく髪型も服装もかなり凝っていたはずなんだけど、「木の厚底の靴」が強烈に異彩を放っていたので、そればかり覚えています。原宿あたりにいるぶんには別に違和感もないんでしょうが、底の厚さのせいで背もかなり高かったし、当時のネルシャツまみれのキャンパス内にいれば否が応でも目立ちました。
図書館のあたりでよく見かけたのは、弁髪風の髪の男の人。三つ編みにはしていなくて、頭頂部を直径10センチくらい円形に残してほかの部分をそりあげ、残した部分は肩に掛かるくらいまで伸ばして一つに結んでいました。精悍な顔をしていて、ファッションも良かったような気がするけど、髪型が強烈すぎてこの人もほかの部分の記憶がおぼろげ。
この2人みたいな人は、きっと今でもある種のファッションスナップに取り上げられそうなタイプです。しかし、それとはまた一線を画した、別の目立つタイプの人もいました。
駅でよく見かけた大柄な男の人は、私が出くわすときはたいがい上下ケミカルウォッシュっぽいジージャンとジーパン(デニムというよりは、この言葉が似合う)で、フレーム大きめのメガネをかけていて、身につけるものだけでいえば単にモッサリした人という感じだったけど、彼はボリュームのある髪の毛を腰くらいまで伸ばして、それを一本の、綱引きの綱のように太い三つ編みにしていました。髪の毛はそんなにきれいではなく、たくましい三つ編みから硬そうな毛がピョンピョン飛び出ていて、なんかもう三つ編みそのものが「生命」って感じでした。気になって仕方なかった。何者なのかは分からない。
男声合唱サークルの人が屋外で練習しているのをときどき見かけていて、彼らはお世辞にもおしゃれとはいえず、やっぱりみんなが同じようなネルシャツとかチノパンのようなものを着ているのだけど、あるとき彼らの中に急に青い髪の人が混じっていたことがありました。服はほかの人とさほど変わらないのに、その一人の頭だけが急に、唐突に、青髪になっていました。なんで?と思って、通りかかるたびに目が行っていました。
高校の時は、みんな制服を着てるから分からないだけだったのだ。私服になった途端、おしゃれとかダサいとかいう単純な目盛りでは計れない、座標のあらぬところに飛び抜ける人がいる。
そして、私が見た彼らは全員、ファッションが単独行動でした。
音楽サークルとか劇団とかやっている子は平均的に身なりが洗練されていて、そういうサークルに入った子は最初冴えなくてもどんどん周りに影響されて都会っぽくおしゃれになっていくんだけど、結局私の記憶に残ってるのは、そういうのじゃないの。もう、一人だけでいきなり図抜けてるの。周りにもまれてとか、そういうことじゃないの。
いま思えば、私はずいぶん「単純なおしゃれ」を目指していたんじゃないかと思います。私はなんでも好きにできる学生のうちに、弁髪とか太い三つ編みくらい突き抜けたってよかったのだ。「人目を気にしない」こそが勝利の秘訣!
とはいえ、自意識バトルはそう簡単に終わりません。学生のうちは、戦いの終わりがまだまだ見えそうになかった……。
Illustrator/Takayuki kudo
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