能町みね子連載「買わりばえのしない私」vol.10本誌発売と同日公開!!

買わりばえのしない私 vol.10
涼しくなってきたからか、暑いのが苦手な能町さんは元気いっぱいな様子。原稿もノリノリな様子。それはいいけど(本誌では)縦書きの連載で「!」をこんなにつけると組み方に困るから、もう少し落ち着いて!!!!!

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2023年10月9日
半田そうめんを買った
 今度は徳島に行った。しょっちゅういろんなところに行っている。でも、徳島にはめったに行かない。かなり久しぶりの徳島である。
 徳島といえば何ですか。正解は半田そうめんです。ちょっと太くて食べ甲斐のあるそうめんです。あと、すだちです。徳島の人は何にでもすだちをかけて食べます。
 ですので、帰り際、たまたま見かけたいかにも地元っぽい八百屋さんで、袋に大量に入ったすだちを450円で買って帰りました。今もう何から何まですだちかけて食べてます。あと、もちろん空港で半田そうめんも買って帰りました。
 半田そうめんの思い出語っていい? 私この思い出話好きだから、どこか別のところでも語ってるかもしれないけど。2回目だとしても聞いて。
 古い建物が大好きな私は、以前に徳島の某町に、すばらしい木造の映画館を見に行った。建物は超ビューティフルでスプレンディッドで最高でした。
 しかしそこでは特にほかの予定がなくて、私はほど近い素朴な田舎の駅に戻り、電車が来るまで駅前の古いおみやげ屋さんを冷やかしていました。そこはとても小さな街なので通りに人も歩いていないし、お店にもお客さんは誰もいない。お店には半田そうめんがたくさん並んでいて、なるほど、徳島って半田そうめんが有名なんだね、って、その時知りました。
 それにしても店に入ってからずっと、奥にいるお店のおじさんの視線を感じる。なんとなく緊張が伝わってくる。確かに客は私しかいないけど、ふつうこんなに見ないよね。何だろう。
 おじさん、緊張の面持ちのまま、じわじわ私に近づいてきた。え、何?
「あのー、あー、ど、どこフロム?」
 意味が分からなかったのは一瞬だった。私はすばらしい頭の回転で状況を理解した!
 私、いま金髪だ! 金髪だから西洋人だと思われた!! そして英語で話しかけられた!!(これは英語じゃない)
 気を利かせて「アメ~リカ」とか言えばよかった。そこまで気が回らず、「あっ、日本人です(笑)」と言ってしまったことを今でも後悔している。
 日本人と分かって、おじさんはへたりこみそうなくらいホッとしていた。英語(ではない)で話しかけたおじさんの勇気を私は全力で讃えたいと思い、私はそのお店で半田そうめんを箱で買って帰りました。半田そうめんの思い出、おわり。


2023年10月14日
自転車を買った
 自転車を!!!! 買った!!!!!!!!!
 「!」をこんなにつけたいくらいテンションが上がりました!
 運動はずっと嫌い、走るのも大嫌い、最近は歩くのすらちょっとめんどくさくなってきて着実に老化の道を進みつつある私でも、まだ自転車は好きだった! 自転車を買ったらこんなにテンションが上がるなんて! さっさと買えばよかった!
 最近、都心と呼んでもいいようなところに引っ越しまして、そうなると俄然自転車が便利になるので、買ったよ!
 地下鉄を乗り継いで行くよりも、時には車よりも、自転車漕いで行ったほうが早く着く、というところが都内にはけっこうある。大都会では車も渋滞気味だからそんなに爆走しないし、自転車が車道をスイーッと飛ばして行くのがいちばん速い、というパターンが起こりうる。もうこの気持ちよさったらない。
 長いお付き合いになるだろうから良いものがほしいけど、電動アシストは邪道だ!と意地を張り、私はビアンキちゃんを選んだ。ビアンキちゃんは、おイタリアのハスッパなかわいこちゃんです。おブランドの名前からしてお高そうだけど、そんなにお高くなかったんですよ。型落ちで5万円台でしたよ。
 張り切ってどこに行ったか言っていい?
 六本木ヒルズに、自転車で行ったよ! ヒルズに!
 これで私もヒルズ族だよ! 勢いとテンションで意味のないことを言っているよ! 都会に住んでるな~、って感じられるのって何より自転車なのよ! ヒルズに住むよりヒルズに自転車で行くほうが都会人だよ!




Illustrator/Takayuki Kudo

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